要件定義をAIに丸投げすることの危険性
AIは、要件定義書らしきものを生成できる。だがそれは、要件定義を行ったことを意味しない。
AIが出力するのは、一般論や想定される構成、もっともらしい選択肢であって、 判断でも合意でもない。
要件定義をAIに丸投げすると、
- 何を選んだのか
- 何を捨てたのか
- どのリスクを許容したのか
が、誰にも説明できないまま成果物だけが残る。 その設計は、事故が起きるまで「正しそう」に見える。だからこそ危険である。
ここで、よく思う例えがある。 それは、「恋愛小説を生成して」とAIに依頼し、 出力された文章をそのまま出版するようなものだ。
AIは、それっぽい文章は生成できる。 しかし、
- 何を表現したかったのか
- どこを削ったのか
- どの違和感を許容したのか
といった、要求に含まれていない判断は一切行わない。
AIは意思決定をしない。価値判断もしない。責任も引き受けない。 要件定義や設計とは、それらを人が引き受け、言葉として残す行為だと考えている。
AIは、その過程を助けることはできる。だが、代替することはできない。
要件定義の難しさ
要件定義が難しいのは、技術的に高度だからではない。
正解が存在しない中で、お客様の要望と、実現方法・コスト・リスク・運用負荷の 実現可能な範囲を確認・合意する作業だからだ。
要件定義とは「正解を探すこと」ではなく、 その時点での「最適解を探すこと」に近い。
この合意点は、人によって、組織によって、時代によっても変わる。 だから疲れる。だから属人化する。だからAIだけでは決められない。
真の意味での「人 × AI」の要件定義スタイル
AIの価値は、要件定義を代替することではない。
真の価値は、要件定義を前に進めるためのシンクタンクとして機能する点にある。
- 選択肢を提示する
- 他社事例を出す
- リスクを洗い出す
- 前提を疑う材料を出す
人は、何を優先するか、何を諦めるか、どのリスクを引き受けるかを決める。 AIは、その判断材料を即座に提示する。
この役割分担ができたとき、要件定義フェーズで合意点が明確になり、 実装フェーズまでが爆速になる。
最後に
要件定義は、人の能力差が最も表に出る領域である。
AIはその差を埋めない。むしろ、拡大させる。 だからこそ、AIを「答えを出す存在」ではなく、 合意点を詰めるための相棒として使いこなす必要がある。
これは正解ではない。だが、「どうすればいいのだろう」と立ち止まった人にとって、 考える足場になれば十分だと思っている。